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2012年7月7日土曜日

「古事記の歩んできた道」奈良国立博物館


和銅5年(712年)に『古事記』が撰上されてからちょうど1300年。
記念の年になる今年は『古事記』編纂の地である奈良を始め各地で
様々な催しが開催されています。

奈良国立博物館でも6/16から7/16までという短い期間ですが
『古事記』関連の展覧会が開かれています。・・・が、こちらでは

「古事記の歩んできた道」という展覧会のタイトル通り
『古事記』が1300年にわたって歩んできた軌跡を取り上げて
『古事記』という書物の持つ力を、イベント的な切り口とはまた違った内容で、より身近に感じるような展覧会となっています。

展示室は、東新館ではなく西新館の第1室のみという、こじんまりとしたスペースでしたが、奈良博らしい展示物がずらりと並び、中身の非常に濃い展示内容でした。
その展示内容はわかりやすく、5つの時代に分けられています。

(1)古事記誕生の時代
 まず30年ほど前に発見された、古事記編者「太安万侶おおのやすまろ(?~723)」の墓誌(重文)や、日本書紀の現存最古の写本(国宝)、「出雲国風土記」などが展示されていて、その他に『古事記』が書かれた同時代の文字資料として、木簡や奈良時代の古文書などが展示されていました。
この古文書に書かれた文字と『古事記』の文字”参”の特徴を
詳しく取り上げていて、なるほどと、興味を引く内容でした。

(2)春霞の中の古事記
平安時代には国風文化が花開いたにも関わらず、古事記には光が当たらず、春霞の中に埋もれてしまっていた時代だったと。
「古語拾遺」(重文)などが展示されています。

(3)古事記 奇跡の再発見
鎌倉時代になって、平家物語の登場や元寇神風など
神仏への祈りが奇跡を起こすという神国論が高まる気運の中で
神々の巻である『古事記』上巻に関心が深まっていきます。
ここでは、室町時代に書かれた写本「春瑜本」(重文)「梵舜本」や
そして三巻揃った現存最古の写本「真福寺本」(南北朝・国宝)
などが展示されています。
成立から600年を経て『古事記』の写本が現れたことは、後世『古事記』の研究が成されていく上で奇跡的な再発見だったことでしょう。

(4)古事記研究の発展
江戸時代、本居宣長をはじめ後世に『古事記』を研究した人々の著作が展示されています。
この中で、本居宣長の書き入みや付箋のある古事記(重文)や
古事記伝の草稿本、再稿本など宣長自筆のもの(重文)が
江戸時代を非常に身近に感じて興味深かったです。

(5)古事記 図像の世界
 明治時代になって、天皇の正統性と由来を語るものとして
『古事記』が新聞・雑誌・挿絵・絵画・絵葉書・引き札など
多くのメディアに溢れ出すことになります。
この中では「因幡の白兎」や「八頭の大蛇」など英訳本になったものに
描かれた挿絵に惹かれました。
『古事記』が引札(広告チラシ)や双六 などのテーマにもなって
庶民の暮らしの中に浸透していく様子がまた興味深いです。

全体を通して・・・
「やまとはくにのまほろば たたなづく あをかき
やまごもれる やまとしうるはし」(原漢文)
の思国唄くにしのびうたが 書かれた部分を
実際に目で触れて文字を読むということが
私にとっては、大変心地よいことだと知りました。
(いつも車を運転していて、奈良の東方面に
たたなづく山々青垣の様子を目にすると
自然と口に出るこの言葉が大好きなのです。)

おまけの画像:
奈良博向いの氷室神社の睡蓮も満開でした。