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2012年4月11日水曜日

守田蔵さんの撥鏤と吉祥庵の蕎麦

浄瑠璃寺門前にあるお蕎麦のお店「吉祥庵」さん。


今まで、浄瑠璃寺を訪れる度に何度か覗いてみても
お休みや売り切れたあとで中々ご縁がなかったのですが
先日の浄瑠璃寺訪問の時に、ようやくお店に伺うことができました。

築120年の古民家から醸し出されるお店の雰囲気は
店主ご夫妻の「凛」とした美意識に、温かなおもてなし心が控えめながらも寄り添って、入った途端に何か感じるものがありました。





抽象的ですが、そういう「感じ」は
いただいたお蕎麦やおぜんざいからも感じられて
美味しいと満ち足りるのはお腹だけではないのだなぁと
しみじみとした満足感を味わったのでした。




ずっと以前のブログにご紹介したことがあるのですが
店主の守田蔵さんは白洲正子さんに「貴重な陶工」と評された方。

独自の美意識と古美術に対する鋭い洞察から生まれた茶碗や信楽など
守田さん作陶の器がお店の飾り棚に置かれていましたが、その中に
なんとも美しい「撥鏤ばちる」や奈良人形の伝統工芸品も並んでいて。



ふと見ると、青柳恵介さんが書かれた
『守田蔵さんの撥鏤』と題した「芸術新潮」が目に留まります。



ちょうど、工房からお店の方に守田さんが入ってこられたので
「撥鏤」を始められた経緯などを勇気を出してお尋ねしてみました。



守田さんは数年前に大病を患い、生死の境目を彷徨うという体験をされ
その時に、もし生きて家に帰れたら、陶芸をやる前に少し挑戦して中途半端なままで終わっていた「撥鏤」をもう一度作りたいと願ったのだそうです。

陶芸は体力的にも無理と諦め、「撥鏤」の道に進まれた守田さん。
「芸術新潮」を読むと、「撥鏤」も相当根気のいる仕事です。


象牙を煮たり干したりと時間をかけて染め上げた後に施される
彫りの仕事も、神経の集中する大変な仕事だと思います。

いつも午前中の自然光のもとで、拡大鏡など一切使わず肉眼で
そして、正倉院文様はすべて頭に入っていて、下書きもせずに
絵柄を直接刀で彫っていくのだそうです。
(その絵が素直に頭から手に伝わるために、何度も紙に書いて暗記をするのです。)



お話を伺いながら見せていただいた「撥鏤」の数々は大変美しく
お店の佇まいや、お蕎麦の風味にも感動しましたが
それ以上に、いいものに出会えて思わぬ喜びでした。

こちらで気持ちのいい時間を過ごした私は
浄瑠璃寺を出てからもう少しどこか寄り道をしたい気分にかられて
その後は笠置寺まで(無謀にも!)車で行ってしまうのでした。
(この話はまた後日に・・・)

帰宅してから「守田蔵さんの撥鏤」を検索してみて
守田さんのブログを見つけました。こちら
また、奈良一刀彫の作品は守田さんのご子息が作られたものでした。