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2011年5月15日日曜日

奈良県立美術館「中村勝治郎」展

奈良県立美術館で開催中(〜5/22)の特別展『中村勝治郎〜明治美術の光彩の中で〜展』の鑑賞記です。
画家については予備知識も無く、作品も見たことがなかったので
一応HPなどで予習をして行くことにしました。

慶応2年、奈良市手貝町(奈良倶楽部のご近所だ!)で生まれ
美術学校には行かずに、京都で洋画家・山内愚僊に絵の手ほどきを受け、後に黒田清輝と知り合って、東京美術学校の助教授になった明治時代の洋画家。

この展覧会は、画家の初の回顧展になり、油彩画約80点に水彩画や鉛筆画、美術資料の他、交流のあった黒田清輝や久米桂一郎の作品も展示されるという。

でも、裏を返せば・・・
これまでに一度も回顧展が開かれておらず、その画業はほとんど知られていない・・・ということは、それほど光彩を放つ画家ではないのかもしれない・・・などと意地悪く思いめぐらしながら美術館に入りました。

う〜ん、そうですね。
油彩画は年月を経て随分傷んでいるものが多かったし
「これは!」と思える作品には出会えませんでした。

絵の手ほどきを受けていた時代の作品と、その時の師匠・山内愚僊の作品が第一展示室に並べて展示してあるのですが、絵の力量がもう歴然とわかって、その印象がずっと尾を引いてしまいます。最後の展示室でも、黒田清輝や久米桂一郎の作品と並ぶと「やっぱり違うよね」と思うのでした。(ごめんなさい、中村勝治郎さん)
持って生まれた才能の違いは存在するのか・・・と趣味で絵を描いている私は、何だか身につまされながら観てしまいました。

花の絵では黒田よりも認められているところもあったようです。
こちらが黒田清輝の描いた花の絵↑
下2枚が中村の描いた花の絵↓
アマチュア画家のレベルも高い現代の鑑賞者から見ると、それほど素晴らしい作品とも思えませんが、明治洋画の一つの断面を示していると思うと、今回のまとまった作品は貴重な史料でもあって、この展覧会の意義も深いものだと言えます。

そんな中で、数は少ないのですが肖像画がかなりのインパクト!
佃島の親分「金子政吉像」は、通称「佃政」という関東有数のヤクザの親分(モデル)を前に描く画家の、オールマイティで受容度が広く融通性の高い性格を感じました。画家はきっと全てを受け入れることができる優しい性格の方なのではと思いました。
また、幕末志士の「清河八郎像」もすごい。この世にいない人の肖像を描くにあたっての苦労。人を描くことに真摯に向き合って悪戦苦闘している画家の姿を感じる作品。木炭で描かれた下絵も強烈な印象でした。
人物画を観ると、今まで観てきた風景画や静物画のぼーっとした印象が払拭された気がします。
こちらは画家の自画像。↓ 人物画は上手いと思います。
 またもう一つ、いいなと思ったのはポスターのデザインや
花を描いたポストカードなど。(風景画のポストカードはイマイチだけど)
この花の絵葉書は商品化されれば買いたいくらい素敵でした。

何だかんだと書いてしまいましたが
作品にはその人なりが表れるということが今回もよくわかり
明治という時代の今まで全然知らなかった画家に対して
親近感のわく、ある意味、興味深い展覧会でした。

(画像は全てチラシから撮っています。)

特別展「中村勝治郎ー明治美術の光彩の中で」 
会期:5/22(日)まで
時間:9:00〜17:00(金・土は19:00まで)入館は30分前まで
場所:奈良県立美術館(奈良市登大路町10-6)
電話:0742-23-3968
(↑HPから割引鑑賞券をプリントアウトできます)